2020年5月号【編集長から】

<「文化力の勝利」へ>

 小説やエッセイを楽しんだ後、その一文に目が止まると思いの強さにいつも圧倒されます。〈第二次世界大戦の敗北は、軍事力の敗北であった以上に、私たちの若い文化力の敗退であった。私たちの文化が戦争に対して如何に無力であり、単なるあだ花に過ぎなかったかを、私たちは身を以て体験し痛感した〉。角川文庫の巻末に掲げられた「角川文庫発刊に際して」です。

 角川書店の創業者角川源義によるこの刊行の辞には、1949年5月3日と付されています。新憲法が施行され、まる2年の憲法記念日。国家を再建する決意を感じます。

自由や民主主義、安全、豊かさ。新型コロナウイルスの感染拡大は、日本だけでなく国際社会が戦後営々として築いてきた様々な価値を揺るがしています。

 今月号の特集は、「コロナ直撃 世界激変」です。東浩紀さんは時評で、グローバリズムやリベラリズムの思想が揺らぐ「歴史の曲がり角」に直面していると指摘します。致死率はさほど高くないという感染症の、不釣り合いなほど深刻な影響に言葉を失います。

 先行きは不透明なことばかりですが、「不快なあいまいさへの『耐性』が必要だ」という松田美佐さんの言葉は示唆に富んでいます。感染症との闘いに、敵国や敵兵が存在するわけではありません。冷静さを保ち、理性的に対処することが「文化力の勝利」につながるのでしょう。

編集長 穴井雄治