2009年9月号【編集後記】

★「孟子謂高子曰、山徑之蹊間、介然用之而成路、爲不用、則茅塞之矣」。バラク・オバマが米中戦略経済対話のスピーチで引用した孟子の一節。アメリカ大統領に自国の古典を使ってご機嫌取りをされて協調を求められることなど、少なくとも日本に対してはありません。中国の勃興と言うべきか、アメリカの凋落と言うべきか、この数ヵ月の両国の力関係の激変には目を見張るものがあります。

★しかし、そこはアメリカ。ちゃんとワサビも利かせています。原典ではこれに「今茅塞子之心矣」と続きます。言外に、現在の中国の国際協調姿勢を批判しているともとれます。何より、わざわざ「孟子」を選んでいること。「民爲貴、社稷次之、君爲輕」の思想家です。「共産党をもって天と為す」中国に含むところがありそうです。★かく言う日本は、孟子とは、もっとそりが合いません。聖徳太子のように「和を以て貴と為す」と誤魔化したり、吉田松陰のように「此義を辨ぜずして此章を讀まば、毛唐人の口眞似して......國體を忘却するに至る。惧るべきの甚だしき也」と天皇中心主義の立場で反発したり、ともかくこの革命思想を受容することができませんでした。しかし、この天性の保守国家にも何十年かぶりに権力の遷座が。「諸侯危社稷、則變置、犠牲既成、粢盛既、祭祀以時、然而旱乾水溢、則變置社稷」。どんなに背を向けていても今度は孟子的現象を目の当たりにできそうです。(間宮)