2009年12月号【編集後記】

陸奥宗光は、東学党の乱から日清戦争、三国干渉に至る外交の内幕を回想録に残しています。「......滔々たる世上の徒と共にその是非得失を弁論争議するは素より余が志に非ず。しかれども政府がかかる非常の時に際会して非常の事を断行するに方り、深く内外の形勢に斟酌し遠く将来の利害を較量し、審議精慮いやしくも施為を試み得らるべき計策は一としてこれを試みざるなく、遂に危機一髪の間に処し、時艱を匡救し国安民利を保持するの道ここに存すと自信し、以てこれを断行するに至りたる事由は、余またこれを湮晦に付するを得ざるなり」(『蹇蹇録』)。

ここにあるのは世論や世評とはかけ離れて国益のみを追求する透徹したリアリズムです。★さて昨今の日本、鳩山政権になっていきなり日米関係が緊迫です。何であれ確固たる政策目標があるものと信じたいですが、閣僚発言の迷走を見ていると、国内政治も日米同盟も、と何が最優先かまだ何も決まっていないとしか思えません。陸奥は「他策なかりしを信ぜんと欲す」と三国干渉を受諾します。これに比べると多策はおよそ政治には見えません。★そもそも責任ある立場の人間は「......も......も」という態度をとるべきではありません。プライオリティーを決める能力がないと分かれば、ビジネスの世界なら取引の相手とされず、極道の世界なら手を突っ込まれてガタガタにいわされてしまいます。さてアメリカはそのどちらでしょうか。(間宮)