2011年7月号【編集後記】

★五月の連休に家電量販店に出かけた。アイリンクだの動作保証だの、慣れない言葉と格闘したあげく、ようやく商品数点の購入を決定。さて御会計、というときの店員の言葉が「少し値引きさせてもらいましたから」。

★しまった! 飯島勲氏の本に、販売員が上司やオーナーに連絡をとるまで底値は来ないから値切り続けろ、とあったではないか。値引き交渉もせず、相手に"負けて"もらうとは、関西人の風上にも置けない。★国益とプライドを懸けた対外交渉は、もちろん「しまった」では済まされない。震災前の懸案は先送りされただけで何も解決しておらず、日本を取り巻く環境の厳しさは変わらない。いまこそ外に目を向けるべき、との思いで「交渉力」を特集しました。(木佐貫)

★吉野作造について型どおりのイメージしか持っていなかった私は、橋川文三『昭和維新試論』の記述に瞠目させられた。同書では、昭和維新の始まりに位置づけられる一九二一年の安田善次郎暗殺事件が解説され、その思想的意味を鋭敏に捉えた同時代人・吉野の「朝日平吾論」が高く評価されている。★『中央公論』誌上で健筆を振るい、顧問格となり、『朝日新聞』で論説委員を務め、『明治文化全集』の完結に漕ぎつけた吉野の姿が大きく見える。このジャーナリスト感覚に優れた、大正デモクラシーの旗手を中心に据えた近代ジャーナリズム史、出版文化史が現れないものだろうか。(太田)