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2012年12月号【編集後記】

★治安や失業率はそれほど悪くない。年金、生活保護も今のところは機能している。「心地よさ」に浸りながらも、しかし人々は満足せず、大きな「変革」を求める。

「少しずつ実現されている微調整を正しく認めてそれを慶ぶこと」(山崎正和氏)は難しい。★早坂隆氏「鎮魂の旅」のテーマはモンゴル抑留。極限状態に置かれた俘虜たちは、ただ一片のパン、一時の休息を追い求め、それ以外の感情を停止させる。胡桃沢耕史『黒パン俘虜記』には、食物を譲り合えばどちらかが死ぬ、共に生き残るためにわざと別々の収容所に入った親子の話が出てくる。★ヒトは環境によって、いかようにも変わる。それは強さなのか、はたまた弱さなのか。(木佐貫)

★午前四時。中央通りで車をとめる。「市ヶ谷の大日本印刷を経由して吉祥寺方面へお願いします」。すると、運転手が静かな低い声で呟いた。「金曜日と同じですね」。三日前と同じ時間、同じ運転手。「わたくし、一八年間に同じ方を三度乗せたことはありますが、わずか三日とは」。かくして印刷所に校了紙を届けた後、道順を説明することなく、意識を失ったまま家まで帰り着く。ドアを開けて、運転手は静かな低い声で囁いた。「もうお目にかかることはないかと思いますが、お気をつけて」。(吉田)