2013年6月号【編集後記】
一勝三敗一分。苦戦とみるか、善戦とみるか。人間対コンピュータ、将棋「電王戦」の第二ラウンドが行われた。作家の大崎善生さんは、そばで観戦していてコンピュータの手に感動したとすれば、それは演算の領域を超えているのではないか、と述べた上で、「この熱戦を通じて間違いなく心を動かされている自分がいる」と書いた。
将棋にもコンピュータにもコンピュータ将棋にも疎い私だが、対局後の精も根も尽き果てた棋士の姿には心が動いた。電王戦に先鞭をつけた米長さん、そしてあの大山さんなら何と言っただろうか。★伊藤隆氏「史料と私の近代史」と、ねじめ正一氏の小説「六月の認知の母にキッスされ」が始まりました。ともに今後の展開が楽しみです。(木佐貫)
★平日昼間、見知らぬ町でバスに駆け乗った。私以外、車中は杖か手押し車を携えた方ばかり。長寿社会を実感するのはこういう時だ。先を急ぐ私としては、停留所ごとにゆっくり動く老々男女が、正直もどかしい。約束の時間は迫る、お年寄りはなかなか降りない。しかも隣のおじいさんが大きなくしゃみをし、驚いた私は素っ頓狂な声を上げてしまった。みんなが笑った。身を隠すようにして降りる私に、一番前に座っていたおばあさんが飴を渡す。★歩きながら、九十を越した祖母の呟きを思い出していた。「年上の人がいないって心細いことよ」。うん、わかる。きっと、そうだろうな。(打田)