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2016年10月号【編集長から】

<このままでは、親不孝者が得をする社会になる>

ラジオから緊急ニュースが流れてきました。「高速道路を一台の車が逆走しています。運転中の方はご注意ください」。高齢のドライバーが大声で叫びました。「何いってんだ。一台どころじゃないぞ」。

イギリスのジョークです。15年ほど前に知って、気に入っていたのですが、だんだん笑い事ではなくなってきました。現実が冗談を超えるかもしれないのです。

2025年、日本の認知症患者数は香港の人口に匹敵する700万人に達すると推計されています。世界のアスリートが東京五輪に終結してわずか五年後のことです。そのころには、高速道路の逆走車は文字通り「一台どころではない」かもしれません。

今月号の特集は、認知症患者が加害者となった時の家族の責任のあり方に焦点を当てました。今は詐欺などの被害者になる事例が問題視されるケースの方が多いのでしょう。しかし、認知症患者が引き起こす事件や事故は確実に増えています。

象徴的だったのは、認知症患者が徘徊中に列車にはねられた事故を巡り、JRが家族を相手に起こした裁判です。今年3月の最高裁判決は、家族の監督責任を認めるかどうかは、患者の面倒を見ていた程度による--などという初の判断基準を示しました。これでは、熱心に介護すればするほど、責任が重くなりかねません。

特集の中で法律家や介護施設の運営者は、判決が家族や介護施設のモラルに与える影響を軽視できないと指摘しています。責任を回避するために、介護を放棄したり、家屋や施設内に患者を閉じ込めておくケースが増えるというのです。

誰もがなりうる認知症患者を、放置したり閉じ込めたりする社会でいいわけがありません。時間切れになる前に、議論を尽くすべきだと思います。

(編集長・齋藤孝光)