2017年3月号【編集長から】

<ふるさと納税の本末転倒>

テレビCMも流れるほど人気の「ふるさと納税」。都市で働く地方出身者が、住んでいる自治体に納める地方税の一部を、寄付の形で地方に還元するというのが、本来の精神でした。過疎などで苦しむ自治体に「恩返し」をする制度だったはずなのです。

ところが国が指定した過疎自治体の中に、「ふるさと納税」による収支が「赤字」になるケースがあることがわかりました。人気の理由である豪華な「返礼品」競争から距離を置いたところ、寄付が集まらないばかりか、地元住民が他の自治体に寄付を多く行ってしまったのです。

こうした自治体の中には、財源を奪われるくらいならと、「返礼品」競争に参入したところもありますが、今度は返戻品にお金がかかり、苦しんでいます。結局、返礼品を供給する地元の事業者と「ふるさと納税」をした人が得をし、トータルではその分を全国の自治体がかぶっていることになります。

2015年度、「ふるさと納税」で最大の「黒字」を出したのは、宮崎・都城市の42億円でした。最大の「赤字」は横浜市の28億円。その差は70億です。3月号の特集は全1741自治体の収支勘定全リストを掲載しました。みなさんが住んでいる自治体やふるさとの自治体の収支も載ってます。

また、「ふるさと納税」推進派の石破茂前地方創生相と、廃止派の片山善博早稲田大学教授、損する自治体の首長として田中良杉並区長が制度のあるべき姿について激論を交わしています。ジャーナリストの葉上太郎氏は、過疎自治体なのに「赤字」となった北海道富良野市と函館市をルポ。返戻金競争の最前線から制度の矛盾を指摘します。

片山教授は、東京都区部などの金持ち自治体が本気で返礼品競争に参入したら、地方自治体はむしろ税収を奪われることになりかねないと「予言」しています。「ふるさと納税」がいつの間にか「都心納税」にならないために、制度の見直しが求められているといえそうです。

<新書大賞2017>
書店員さんや出版社、識者による投票で前年の「ベスト・オブ・新書」を決める新書大賞。10年目の2017年は橘玲さんの『言ってはいけない』(新潮新書)に決まりました。
中央公論3月号で特集しています。

2位は吉川洋教授の『人口と日本経済』(中公新書)、3位は菅野完氏の『日本会議の研究』(扶桑社新書)でした。

特集では、20位までのランキングと投票に応じていただいた方々のコメントを掲載。10年目の節目を祝って、2008年以降10年間の「私的ベスト3」もお尋ねしています。永江朗さんと渡邊十絲子は、最新の新書事情を巡って対談してくださいました。
新書ファンは必読です。

編集長 斎藤孝光
(★ツイッターで発信中です@chukoedi)