2017年4月号【編集長から】

<歴史力で乱世を生き抜く>

現在が第二次大戦前に似ているという説があります。

英フィナンシャル・タイムズ紙は今年の初めに「欧州にファシズムの波が押し寄せ、第二次世界大戦が勃発した当初、孤立主義だった米国が傍観した歴史が頭をよぎる」と論じています。「アメリカファースト」を公言し、一国主義に回帰したように映るトランプ新大統領の誕生に、不幸な歴史の記憶を重ねたのです。

第一次大戦こそ回顧されるべきという識者もいます。

新興国の米、ロシア、独、日本が台頭する一方、世界平和を担保していた大英帝国の覇権が失われた過程が、パックス・アメリカーナが揺らぐ現在と同じ道筋のように見えるというのです。

今回の特集のきっかけは、小社刊「応仁の乱」(中公新書)の予想を超える売れ行きにありました。利害得失が複雑で、だれも主導権を握れないままずるずると続いた泥沼の戦いです。英雄不在の「地味」な史実に関心が高まる理由は、専門家らが歴史に、今に通じる「相似形」を探す動機と深いところでつながっているのでしょう。

特集では、著者の国際日本文化研究センター助教・呉座勇一氏と政治学者で慶応大教授の細谷雄一氏が「英雄なき時代の混沌に立ち向かう」のテーマで対談します。二人が一致したのは、第一次世界大戦と「応仁の乱」の不思議な相似。時空を超えた歴史の共通項を解き明かします。

中国の拡張主義、ロシアと欧州の緊張、中東の混乱、核の挑発を続ける北朝鮮、世界を覆うポピュリズム・・・。国際情勢が混迷の度を深め、先行きを濃い霧が覆っています。日本を取り巻く状況も楽観できるものではないようです。歴史を学ぶのはそれ自体楽しいものですが、いまは趣味と実益を兼ねて向き合える稀な時期といえるのかもしれません。幸か不幸か。

<東京がスラム化する??>

もう一つの特集は、都市の空き家問題です。

土地神話はとっくに崩壊したはずなのに、日本銀行の統計では、2016年の不動産融資は過去最高額に達し、いまだに首都圏にはマンションが建ち続けています。一方で全国の空き家率は住宅総数の13・5%にも達しています。こんなことがいつまでも続くのでしょうか。

しかも、空き家問題は地方の問題ではないのです。

東京、大阪、神奈川、愛知の空き家数の合計は、全国総数の約3割を占めています。確かに大都市の空家率はまだ低い。しかし母数が大きいので、数で言えば大都市に集中し、郊外から中心部に向かって、じわじわと不気味な空洞が広がっているのです。

ある調査では、2033年には、日本の空家率は地域全体がスラム化する水準の30%を超えるという結果が出ています。地域全体がゴーストタウン化し、治安が維持できず、防災力も失われていく。大都市にまで「限界集落」が現れるのです。

特集ではこうした恐怖の近未来シナリオを徹底分析しました。藻谷浩介氏の論文「お台場の超高級マンションが『負け組み』になる日」のほか、「老いる家 崩れる街」の著者で東洋大教授の野澤千絵氏が規制緩和が生んだ住宅バブルを検証。不動産問題の第一人者・オラガ総研代表の牧野知弘氏が、「こんな時代の住まいの選び方」と題して、安易な住宅購入に警鐘を鳴らします。ジャーナリストの菊池正憲氏は、先行事例ともいうべき昭和の人気マンション団地「高島平」の今をルポします。

                              編集長 斎藤孝光
                   (★ツイッターで発信中です@chukoedi)