2017年9月号【編集長から】

<等身大の自画像とは>

エズラ・ヴォーゲル教授が、戦後日本の経済成長を讃えた「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を著したのは、40年ほど前の1979年のことです。日本経済はその後、85年のプラザ合意による円高も乗り越えてバブル状態となり、一時はアメリカを飲み込まんばかりの勢いだったのですが、バブルが崩壊し、中国が台頭したここ20年ほどは、一転して日

本への関心の低下を「ジャパン・パッシング」と呼んで問題とするなど、必要以上に卑下するようなところもありました。ところがここ数年は、さらに一転し、何か空威張りのように日本を自画自賛する風潮が広がっています。等身大の自画像というのは難しいものです。

今回の特集では、そのヴォーゲル教授も含めた米ハーバード大の10教授に、授業での日本や日本史の教え方についてインタビューしています。

▼民主主義の先駆け「十七条憲法」 アマルティア・セン
▼『源氏物語』は不評。城山三郎にびっくり アンドルー・ゴードン
▼和食の「下ごしらえ」がすごい テオドル・C・ベスター
▼『忠臣蔵』に感動する学生たち デビッド・L・ハウエル
▼龍馬、西郷は「脇役」にすぎない アルバート・M・クレイグ
▼渋沢栄一ならトランプにこう忠告する ジェフリー・ジョーンズ
▼格差を広げないサムライの資本主義 エズラ・F・ヴォーゲル
▼被災地・宮古から考える イアン・J・ミラー
▼移民の受け入れは不可避だ ジョセフ・S・ナイ
▼モラル・リーダーとしての天皇論 サンドラ・J・サッチャー

アカデミズムのエリートたちの目に映る日本の姿は、悪くないと思います。ノーベル経済学賞のセン教授が「十七条憲法」を民主主義のお手本としているのには驚きました。ほかにも新しい発見がたくさんありました。

一方で、グレン・フクシマ氏の「発信力を高めるために何が必要か」は、プレゼンスが低下しつつある日本の課題を、苅谷剛彦氏の「オックスフォードから見た『日本』という問題」は、世界から見た日本への関心のあり方の構造的な変化を論じています。浮かれている場合でもないようです。

    

編集長 斎藤孝光
                   

<中央公論デジタル・ダイジェスト=7月25日発刊分>

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