2017年10月号【編集長から】

<政治・選挙制度改革とは何だったのか>

小選挙区比例代表並立制のもとで、初めて衆院選が行われたのは、一九九六年十月のことです。政党助成金の導入で利益誘導型政治に終止符を打ち、政権交代可能な二大政党制に道を開く、政治・選挙制度改革の総仕上げでした。

それから二〇年余り。有権者はいま、与党に利益誘導の気配を嗅ぎ取って怒り、野党には政権を任せるに足る資格がないと心底呆れています。

「政党が信じられない」という特集のタイトルは、こうした有権者の率直な思いを表現したつもりです。田原総一朗氏による野田聖子総務大臣、山口那津男公明党代表の政界キーパーソン連続インタビューでは、今、政党に何が起きているのか、小池新党にどう立ち向かうのかなどをストレートにぶつけました。

世論調査を分析した研究者の論文からは、若い世代を中心に、共産党が「保守」、維新が「革新」との認識が広がっていることが明らかになりました。東西対立時代の政党像は徐々に崩れています。政党側の認識は追いついているのでしょうか。

ところで、大正末期から昭和初期にかけて、二大政党が政権を交互に担った時期がありました。当初はそれなりに機能したのですが、二八年の初の男子普通選挙で、与党政友会が民政党と大接戦を演じてからは、両党は不毛な足の引っ張り合いに終始し、これが「政党政治そのものに対する国民の不信と不満を招くようになり、ついには軍部の台頭へと結びついていった」(御厨貴著「NHKさかのぼり日本史③」)といいます。

同書によれば、両党の基本政策に決定的な差はなかったのですが、「政敵を攻撃するために政策的な差異を必要以上に強調」した結果、「『ためにする』主張に、政党自身が縛られて」行き過ぎた政策を志向することになりました。

九〇年前の経験を糧に猛省する必要がありそうです。歴史は形を変えて繰り返すといいます。有権者の不信の「受け皿」が何になるのかも、注視したいと思います。

もう一つの特集は、元中国大使の宮本雄二氏らが党大会後の習近平体制を占います。特集とは別に日中融和を説いた「対日関係新思考」で知られる中国の著名言論人・馬立誠氏が、日中国交正常化四十五年を機に「人類愛で歴史の恨みを溶かす」を特別寄稿しています。

<中央公論デジタル・ダイジェスト=8月25日発刊分>

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編集長 斎藤孝光