2017年11月号【編集長から】

<北の核ミサイル開発と突然の衆院選>

「あり得ることは起こる。あり得ないと思うことも起こる」。
「見たくないものは見えない。見たいものが見える」。

福島原発の事故原因を探るため、閣議決定により設置された「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」の畑村洋太郎委員長は、最終報告の所感にこう書き記しています。事故から六年半、この所感を改めてかみ締めるべき時かもしれません。

北朝鮮のミサイル・核開発は今も目の前で「起きている」わけですが、それでも米朝間の戦争は「あり得ない」はずだと信じたいです。開戦と同時に、我が国に核弾頭が飛んでくるような未来は絶対に「見たくない」と思います。

しかし所感は、「自分を取り巻く組織・社会・時代の様々な影響によって自分の見方が偏っていることを常に自覚し、必ず見落としがあると意識していなければならない」と警鐘を鳴らしています。事故の直接的な原因を「『長時間の全電源喪失は起こらない』との前提の下に全てが構築・運営されていたことに尽きる」と断じた記述の『』部分を、『核ミサイルでの本土攻撃は起き得ない』、と読み替えてもほとんど違和感がないことに、背筋が冷たくなりました。

原発事故の遠因は安全神話でした。北にも、どんな神話も通じません。見たくない世界を見ないためには、現実を見るしかありません。

日本でも次々に「あり得ない」ことが起き、「見たくない」ものを見せ付けられました。突然の衆院解散、新党結成と野党第2党の崩壊。そして、主義主張を投げ打っても、追い風が吹く他党に移籍しようとする政治家の醜悪なありようには、眼を背けたくなりました。

今月号の特集は、「介護施設が危ない」と「二十一世紀の勉強論」を柱に据えようと構えていたのですが、北のミサイル・核実験と突然の衆院解散で、2本の特集を追加しました。内容は充実していると確信していますが、心はあまり晴れません。

                               編集長 斎藤孝光

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