2018年2月号【編集長から】

<改革倒れはご勘弁>

平成の初期まで、中学と私立高校が相談して受験前に合格者を内定する高校受験生の「青田買い」と呼ばれた慣行がありました。中学校内で実施される民間業者のテスト成績を参考に、生徒を偏差値のみで「輪切り」する進路指導でした。

これに異を唱えたのが、埼玉県の教育長(当時)です。全国に先駆けて一九九二年に業者テストの活用中止を打ち出し、公立高の入試制度を内申点重視、推薦枠拡大に切り替えました。鳩山邦夫文相(同)の支持も得て、「埼玉方式」は全国に広がりました。

偏差値だけで真の能力が測れるのか、だとか、ガリ勉や要領のいい子だけが選別される仕組みはおかしい、だとか、結果がでなくても、コツコツと積み重ねた努力を評価するべき、だとかの声が幾重にも反響して、大きな改革が実現したのでした。

その三年後、埼玉の教育現場を取材しました。そこで見たものは・・・。

内申点を上げるための攻略本を読んで、生徒会や部活動の部長に立候補する「模範生」が続出しました。内申点欲しさに従順を装っていた生徒が、内定後に態度を一変させるのに驚いた先生もいます。偏差値は教育現場から追放され、学力の物差しを失った中学校は進路指導力を失いました。何より問題と感じたのは、高校側の「偏差値をやめ、推薦入試を拡大したことで、中学三年生の学力が明らかに低下した」との受け止めでした。

二〇二〇年度からの大学入試改革も、点数では計測できない能力を見極めると謳っています。その理念に賛同する識者でさえ、懸念を表明している理由は現実が理念を超えて複雑だからです。あまり時間は残されていません。理念先行の改革倒れになるようなことは、避けて欲しいと思います。

              編集長 斎藤孝光

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