2018年3月号【編集長から】
<オランダに学べるか>
一九八〇年代初頭、失業率が一〇%を超えたオランダは、政労使が一体となって労働市場改革に取り組みました。その精華が、二〇〇〇年に施行された「労働時間調整法」です。週何時間働くかは、会社ではなく労働者が決められるようになり、ライフスタイルに応じた柔軟な働き方が可能になりました。従来一人でやっていた仕事を分かちあうワークシェアリングが広まって失業率は劇的に低下し、「オランダ病」と呼ばれた経済は、一転「オランダの奇跡」と称されるまでになりました。
二〇〇二年に取材した時の驚きを思い出します。公務員にも、民間企業の管理職にもパートタイムがいました。時間をやりくりして、複数の企業で働くのも普通のことでした。「同一労働同一賃金」の徹底により、そもそも「正」社員という概念が消えていたのです。
「日本じゃとても無理だ」とも思いましたが、オランダも六〇年代ごろまでは労働観が保守的で、例えば出産後の女性は子育てに専念すべきだという考え方が普通だったと聞いて思い直しました。オランダの労働市場活性化を支えた大きな柱は未就労女性の参入でした。七〇年代半ばまで先進国中最低水準だったオランダの女性就業率は、改革後は独仏に肩を並べる水準に高まったのです。
もちろん、日本とオランダでは産業構造も年齢構成も異なります。オランダ流ですべてうまくいくとは思いません。しかし、働き方を改めるには、制度だけではなく、国民意識を根底から変える必要があるという点はオランダから学べると思います。特集がその理解の助けになれば幸いです。
編集長 斎藤孝光
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