2018年9月号【編集長から】
<平成最後の終戦記念日に>
鴻上尚史さんのデビュー作は、男性5人の印象的な群唱で幕を閉じます。<朝日のような夕日をつれて/僕は立ち続ける(中略)冬空の流星のように/ぼくは ひとり>
特攻を命じられたとき、体重の5割を超える装備を背負って行軍するとき、あるいはペリリュー島の絶望的な飢えの中で、私たちは冬空の流星のように、ひとり凜々しく立っていられるでしょうか。自分がもし、そこに生きていたら。実証的な研究、丹念な取材に基づく著作を読むと自然にそんな気持ちになります。
平成最後の終戦記念日を迎えます。俳人の中村草田男が「降る雪や明治は遠くなりにけり」と詠んだのは、大正年間ではなく昭和6年のこと。平成が終わると「昭和は遠くなりにけり」という感慨が広がるでしょう。戦後生まれの皇太子さまが即位されます。戦争を知らない世代の責任はいよいよ重くなりそうです。
今月号の特集は「日本軍兵士の真実」です。朝鮮半島で終戦を迎えた五木寛之さんと、『不死身の特攻兵』を著した鴻上尚史さんの対談は、特攻に代表される戦争の絶望と、その中に見える一筋の希望について語ります。『失敗の本質』の戸部良一さんと、『日本軍兵士』の吉田裕さんの対談は、「兵士の身体を通して見た日本軍という組織」がテーマです。いずれも、深く考えさせられる内容です。
戦争体験者は減り、記憶の継承は難しくなります。戸部さんの言葉が胸にしみます。「特攻で亡くなった方が無駄死にだったというふうに貶めてはいけないと思います。しかし、それと同時に何でこんな馬鹿なことをやってしまったのかという問題意識を持ち続けなくてはいけない」。祈りを捧げ、考え続ける。それが、多くの犠牲の上に築かれた平和を享受する私たちの責務でしょうか。
編集長 穴井雄治