2018年11月号【編集長から】

<新しい冷戦、日本の役割は?>
日本から米国への集中豪雨的輸出が問題視されていた時代です。ロンドンで開かれた1977年の先進国首脳会議で、福田赳夫首相は「現在、世界が抱えている経済的な困難は、30年代の世界的大不況当時に匹敵するほどの厳しさがある」と説きました。恐慌から欧米各国が保護主義に走り、第2次世界大戦につながった経緯を説明し、自由貿易の重要性を訴えたのです。

サミットは、この時が3回目。世界貿易に占める先進国の割合は圧倒的で、改革開放に転じる直前の中国はまだ貧困の中にありました。翌78年10月、鄧小平副首相が来日し、福田首相と日中平和友好条約の批准書交換式に臨みます。以来40年、中国の経済力、軍事力の伸びは予想以上でしょう。やがて政治的にも自由化が進むという期待ははずれ、中国は権威主義体制に自信を深めているようです。

今月号の特集は「米中激突と日本の危機」です。米中対立は単なる貿易戦争ではなく、米ソ冷戦に匹敵するのではないか――。「貿易戦争から『新しい冷戦』へ」と題する田中明彦氏の巻頭論文は示唆に富みます。長い戦いになるのでしょうか。

福田元首相は、戦前を知る「歴史の生き証人」の務めとして各国首脳に対立回避を呼びかけました。自由貿易と平和の恩恵を受けて成長した日本にとって、元駐中国大使の宮本雄二氏が今月号で説くように、米中の決定的な衝突を避けるよう努力することが重要な役割でしょう。

編集長 穴井雄治