2019年3月号【編集長から】

<ハーバードから見た日本の姿は>
 今月号の連載「農業の未来を考える」は、福田康夫元首相に登場いただきました。福田元首相は、エール大学教授・朝河貫一が1909年に著した『日本の禍機』を愛読書に挙げます。日露戦争勝利の慢心を戒め、日米衝突に警鐘を鳴らした書です。

 大学や米国議会図書館からの依頼を受けて朝河が集めた日本関係の資料は、米国における日本研究の礎となりました。その朝河が、今の研究状況を知ったら何を思うでしょう。多方面で日本理解が進んでいることに目を細めるかもしれません。それとも「『日本研究』の本場は日本ではない」ことを嘆くでしょうか。

 今月号の特集は、「ハーバードが注目する『新しい日本』」です。日本に関するハーバード大学教授10人の連続インタビューです。自らを正確に知ることは簡単ではありません。短所も含め、虚心坦懐に日本を省みるきっかけにしたいものです。

 恒例の新書大賞は111人の投票の結果、吉田裕さんの『日本軍兵士』に決まりました。戦場の凄惨さを身体的な描写で伝え、世代を超えて支持されました。社会に分断が生じ、意見の異なる人との対話が難しい時代です。吉田さんの姿勢は、そうした現代の「禍機」を克服するヒントにもなりそうです。

 編集長 穴井雄治