2019年5月号【編集長から】

2019年5月号【編集長から】
<令和へ 象徴天皇制を考える>
 明治政府は天皇に対し、公に相聞歌を詠むことを禁じたといいます。文芸評論家の亀井勝一郎は、相聞歌の消滅を「万葉以来の伝統からみると異常の状態」と評し、「『道徳の師表』たることを求めたところに生じたストイシズムと言ってもよい」と指摘しています(『現代史の課題』)。

 この一件を、丸谷才一は「近代最初の(そして最大かもしれない)文学的弾圧」と批判しました。「日本文学の中心にあるのは和歌で、そのまた中心に位置を占めるのは天皇の恋歌(こひか)である」という考えからです(『袖のボタン』)。

 新たな元号が令和に決まりました。出典となった万葉集にも、あらためて注目が集まっています。

 いまの天皇陛下が皇太子時代、婚約内定後に詠まれた歌があります。<語らひを重ねゆきつつ気がつきぬわれのこころに開きたる窓>。新憲法下の皇室にふさわしい相聞歌でしょうか。自由、男女の平等、個人の尊重といった価値観が表れているようです。

 天皇、皇后両陛下が国民に広く敬愛されているのは、単に憲法の規定によるものではなく、お二人の歩みのゆえでしょう。伝統と憲法の価値観を体現し、真摯に公務に取り組まれる姿勢には「道徳の師表」「道徳の指導者」としてのストイシズムも感じます。

 今月号の特集は、「新しい象徴の時代へ」です。識者の座談会や論考では、象徴天皇制をめぐる様々な論点が示されました。負担軽減や安定的な皇位の継承へ、さらに議論を深める必要があります。

 国際化や少子化など、様々な変化のなかで改元の節目を迎えます。新天皇即位に伴って、昭和の日、憲法記念日、みどりの日、こどもの日と続く10連休。それぞれの意義に思いをはせ、新時代の道徳や価値観について考えるよい機会かもしれません。

 編集長 穴井雄治