2019年6月号【編集長から】

<労働開国にどう向き合うか>
 13歳で米国に留学し、英語のわからぬまま、書類にサインをしてしまう。学問ができると喜んでいたのに、勤め先の主人は、「お前の身体(からだ)は、三年間は金を出して買ってあるのだ」。<あの時署名したのは身売りの契約書であったのか>。戦前に首相や蔵相などを務めた"ダルマ宰相"高橋是清のエピソードです(『高橋是清自伝』上、中公文庫)。そのまま逃げられずにいたら。あるいは、欧米社会に強い反感を抱いて日本に帰国していたら。日露戦争の戦費調達や金融恐慌沈静化といった活躍はなかったことでしょう。
 
令和の日本では、4月に施行された改正出入国管理・難民認定法のもと、外国人労働者の受け入れが拡大します。今月号の特集は、「労働開国の衝撃 試される令和デモクラシー」と題しました。

 法務省によると、2012~17年に、日本で働く外国人技能実習生171人が亡くなりました。彼ら彼女らの目に、日本はどう映っていたでしょうか。悪質なブローカーに多額の借金を背負わされ、劣悪な環境で働く実習生も多いと聞きます。日本社会の在り方が問われます。
 
欧米では、移民・難民の流入、グローバル経済の進展により、民主主義の輝きが失われつつあります。何を教訓とすべきか考えさせられます。

 安倍首相は今月号のインタビューで、みんなで助け合うことが日本の国柄だと語りました。それは、普遍的な価値でもあるでしょう。多文化に開かれた令和でありたいものです。

 編集長 穴井雄治