2021年6月号【編集長から】
四月十四日午後、ネットの生中継を見守っていた社員らの拍手と歓声が、弊社フロアに響きわたりました。町田その子さんの『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)が本屋大賞の一位を受賞。私自身は全く関わっていないとはいえ、弊社が刊行した書籍の快挙に、嬉しさやら誇らしさやらがこみ上げてきました。
この春、コロナ第三波の収束もつかの間、すぐに第四波が押し寄せました。緊急事態宣言の判断を誤ったのではないか、ワクチン接種の遅れは行政の怠慢ではないか。政府への不満や今後に対する不安が入り交じり、初めて緊急事態宣言が出された昨年に続いて、重苦しい雰囲気に覆われた四月になりました。一方でそんな空気を忘れさせる嬉しい出来事もありました。白血病から回復した池江璃花子選手の東京五輪競泳女子代表内定、ゴルフの松山英樹選手によるマスターズ・トーナメント優勝。弊社にとっては、本屋大賞受賞もその一つです。
感染対策を徹底する上でしばしば用いられる言葉に「不要不急」があります。現状を考えれば必要性とリスクを秤にかけて行動することは不可欠です。一方、これまでにスポーツや芸術も議論の対象になってきましたが、こんな時だからこそ多くの人はその必要性を認めているでしょう。さて、賛否渦巻く東京五輪の行方やいかに。
編集長:吉山一輝