2021年11月号【編集長から】
炭治郎は確かによくしゃべっていました。10月号に掲載した「2010年代ヒット漫画の饒舌と沈黙」で、著者の谷川嘉浩さんは大ヒット漫画『鬼滅の刃』を取り上げ、主人公が「感情や思考、体の状態を逐一報告している」と紹介しました。先頃、テレビで放送された同作品を見て、遅まきながら私もそれを確認した次第です。この「饒舌」について、谷川さんは「解釈に揺れが生じないように」するためだと解説しています。
説明責任を果たしていないと批判され続けた菅義偉総理は、自民党総裁選に立候補せず、菅政権は発足からわずか1年で終わりを迎えました。昨年の政権発足当初は、秋田生まれの苦労人、平民宰相ともてはやされ、朴訥な語り口が一つの魅力にもなっていました。しかし、コロナ禍で国民が求めたのは、解釈に揺れが生じるような言葉ではありませんでした。菅氏も努力はしたのでしょう。テレビ画面からは、顔を上げてはっきりと話そうとする姿が見えました。それでも、大事なところでかんだり、口ごもったり。
仕事をしっかりこなせば理解される。そういう立場もあるでしょうが、政治家にとっては饒舌な説明も仕事のうちです。少し寂しい気もしますが、「以心伝心」も「男は黙って」も、今のリーダー像には相応しくないようです。もうすぐ、饒舌さを競い合う衆院選が始まります。
編集長:吉山一輝