2022年12月号【編集長から】

★マイホーム用に購入した千葉県内の土地の草刈りに出かけた父が、警察官に職務質問された。50年近く前の話で、当時は東京、千葉、埼玉の首都圏で女性が殺される事件が相次いでおり、鎌を手に住宅街を歩く男はさぞかし不審だったに違いない。その場で父への疑いは晴れ、ほどなく別件で逮捕された小野悦男という人物が犯人とされた。殺人者はテレビの中でなく自分と同じ世界に存在すると、子供心に刻まれた。彼がこの件で冤罪、別の殺人で無期懲役となるのはずっと後のことだ。

★犯罪件数は減っているのに「治安が悪くなった」と感じるのはなぜか。最近の無差別殺傷の被害の大きさに加え、一般人が目にすることのなかった現場の映像や、加害者が残した言葉がSNSを通じて日常に流れ込み、追体験できてしまうこととも無縁ではないだろう。被害に巻き込まれることを恐れる人の一方で、「加害者は自分だったかもしれない」と思い詰める人がいる。特集は「隣にいる殺人者」。

★国の守りをめぐる政府の議論が節目を迎える。大学や民間企業との連携もカギとなる。「学者は政治に関わらず」という考えを排し、外交や国際協力の現場の先頭に立った北岡伸一氏の連載「学問と政治」が始まった。公文書に記録されない秘話を含め、日本の歩みとこれからを俯瞰する政治外交史となりそうだ。

 

編集長:五十嵐 文