2023年3月号【編集長から】

★「消防署の方から来ました」と偽の制服姿でやってきて、高額な警報器類を売りつける。公権力をにおわせて金を騙し取る手口は「かたり商法」と呼ばれ、被害が後を絶たない。

★安倍晋三元首相が昨年7月に非業の死を遂げて以降、政界やメディアでは安倍氏やその政権の功罪をめぐる議論がなおも続く。最近は安倍氏について「語る」ことにとどまらず、「安倍氏は生前こう言っていた」「安倍氏ならこんなやり方はしなかった」など、さほど近しい間柄だったとも思われない人までが安倍氏を「騙(かた)る」ことも多い気がする。安倍氏の権威を笠に着て、勝手な解釈を一方的に押しつけたり、相手をやり込めたりするのは、罪に問われないまでも誠実なやり方とは言えない。

★発売された『安倍晋三回顧録』に収められているのは、間違いなく安倍氏自身が発した言葉である。昨年ほぼ完成した本の出版に「待った」をかけている中で凶弾に倒れた。政治家たるもの、すべてを包み隠さず明かしたとは考えにくいが、健在であれば校正を続け、周囲を慮って削除、修正していた部分もあっただろう。あまりに残念な形で命を奪われたが、憲政史上最長政権の検証に欠かせない歴史的資料を残した。官房長官として安倍氏を支えた菅義偉氏はどう読んだか。本号の菅氏らの鼎談を回顧録の番外編としてお薦めしたい。

編集長:五十嵐 文