2023年4月号【編集長から】

★漫画家の松本零士さんの代表作『銀河鉄道999(スリーナイン)』では、機械人間や人工頭脳が支配する未来を、生身の少年が蒸気機関車に乗って旅をする。機械と人間、未来と過去が交錯する壮大な物語に魅せられ、実家の部屋に映画版のポスターを貼っていたこともある。松本さんの訃報が流れたのと同じ220日、米国のバイデン大統領がウクライナの首都キーウを予告なしで訪れた。ロシアのミサイル攻撃が散発する紛争地を、世界最高レベルの警護対象である米国大統領が、8両編成の寝台列車で片道9時間半もかけて移動したと知り、煙をあげて星の海を進む蒸気機関車のイメージが重なった。999(スリーナイン)号と同様に見た目は旧式でも、安全対策は万全だったに違いない。

★ロシアによるウクライナ侵略開始から1年が経った。機械と人間が入り交じる戦場は、松本さんが描いたファンタジーとはかけ離れた悲惨な現実である。その戦地に欧米の指導者が次々と足を運び、苦境に喘ぐ人々を直接励まし、連帯を示している。技術が進み、画面越しに遠く離れた人と話ができる時代になっても、昔ながらのコミュニケーションがはるかに力強いメッセージを発することに気づかされる。

★編集部も節目は対面で知恵を絞り合う。特集は「団塊の花道」。有終の美を飾るように生きられるか。後に続く世代にとっても切実だ。

編集長:五十嵐 文