2023年7月号【編集長から】

★安倍晋三元首相はトランプが好きだった。そう聞いて一瞬、アメリカの前大統領の顔が浮かんだが、さにあらず。政治家になる前の若い時分にポーカーを嗜み、「運が支配する騙し合いが面白い」と話していたと、安倍氏をよく知る人が教えてくれた。手持ちのカードが弱くても虚勢を張るブラフ、心の動きを読ませないポーカーフェース、スリルを楽しむ強心臓。勝ちを呼び込むテクニックは、権謀術数が渦巻く政界でも役に立つ。

★トランプで覚えているゲームは「大富豪」くらいで詳しくないが、ポーカーの醍醐味は取材に通じる部分があるように思う。本号で東京都の小池百合子知事、自民党の石破茂元幹事長、谷垣禎一元総裁、塩崎恭久元官房長官にそれぞれインタビューした。安倍氏との因縁浅からぬ4氏の本音やとっておきのエピソードを限られた時間の中でどう引き出すか、真剣勝負である。それなりの戦略を立てて臨んだつもりでも、現場では、『安倍晋三回顧録』で「ジョーカー」と称された小池氏が放った「私はハートのエース」の一言に息を呑み、「リベラリズムの傲慢」が世界の混迷の背景にあるという谷垣氏の指摘に深く頷かされ、ベテラン政治家の機転や思索に圧倒されっぱなしだった。こちらのシナリオにない展開になればなるほど面白くなる。詳細をぜひお読み頂きたい。

編集長:五十嵐 文