2023年9月号【編集長から】

★ロシアと中国で、世界的に知られた人物が相次いで表舞台から消えた。6月下旬にロシアで反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの創設者、エフゲニー・プリゴジン氏と、中国で外相と副首相級の国務委員を兼ねていた秦剛氏だ。

★「ワグネルの乱」以降も、プリゴジン氏とされる人物の動画が投稿されたり、プーチン大統領が「会った」と話したりはしているが、ロシアの諜報活動に精通した保坂三四郎氏が本号に寄せた論考を読めば、プリゴジン氏は健在だとする情報を鵜呑みにする気にはなれない。刑務所から受刑者をかき集めてウクライナ戦争の激戦地に送り込むといった汚れ仕事を引き受けてきたプリゴジン氏は、そもそもはロシアの「裏の顔」であり、闇を抱えた人物だった。対する秦氏は外交官出身で、習近平国家主席の肝いりで異例のスピード出世を遂げた中国の「表の顔」である。その秦氏がロシアで反乱が収束した直後に忽然と姿を消し、さまざまな臆測が飛び交った末、1ヵ月後に理由の説明もなく外相を解任された。秦氏が外務省報道官だった頃、北京駐在の記者として何度か話したことがある。議論は大抵かみ合わなかったが、英国仕込みの洗練と愛嬌が印象に残った。

★どんな事情があるにせよ、人が一方的に社会から抹消されるような国家に世界の秩序作りは任せたくない。

編集長:五十嵐 文