2023年10月号【編集長から】

★ドラえもんの「ほんやくコンニャク」が現実になりつつある。外国人旅行者がよく訪れる店では、翻訳アプリを搭載したスマホや自動翻訳機を手にした店員が、対応する言語を選んで商品の説明をしている。駅の窓口では、会話を自動翻訳して表示できるディスプレーの導入も始まった。

★精度がさらに向上し、食べたら人間はおろか機械や宇宙人とも会話できる「ほんやくコンニャク」レベルになったとしても、ロシアのプーチン大統領の言葉を直訳するだけなら意味がない。民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏が6月の武装蜂起から2ヵ月後、搭乗機の墜落で死亡したと伝えられると、プーチン氏は「才能ある人物だった」と神妙に語った。ドラえもんのひみつ道具には裏の顔を引き出すシート「ウラオモテックス」もある。これをプーチン氏に貼れたら「裏切り者は許さない」という本音が聞けるだろう。

★国際刑事裁判所(ICC)は戦争犯罪容疑でプーチン氏に逮捕状を出し、ロシアは報復としてICCの赤根智子判事らを指名手配した。渦中の赤根氏が本号に登壇し、プーチン氏のような「お尋ね者」が入国した場合、日本の国内法では立ち向かえないと指摘した。国際刑事司法の最前線に立つ日本人として、現実を翻訳なしで母国に伝えたいという切実な思いが滲む。

編集長:五十嵐 文