2024年1月号【編集長から】

★昭和のアニメ「母をたずねて三千里」は、9歳のマルコ少年が、イタリアからアルゼンチンに出稼ぎに行ったまま帰らぬ母親を捜し求めて旅する物語である。子どもの頃、テレビの前で何度も泣いた。舞台となった19世紀末のアルゼンチンは穀物や牛肉を輸出し、世界有数の富裕国になった。今は国民の4割が貧困に喘ぎ、経済の悪化が止まらない。11月に行われた大統領選の決選投票を制したのは、梳かしたことがないというボサボサの髪を振り乱してチェーンソーをうならせ、行き詰まった既存政治をぶった切るパフォーマンスで大衆を熱狂させたハビエル・ミレイ氏だ。

★民主化から40年を迎えたアルゼンチンをはじめ、南米の多くの国では軍事独裁政権が崩壊し、定期的な選挙による政権交代が定着した。同時にブラジルのジャイル・ボルソナロ前大統領のように過激で人種差別的な指導者が選ばれてもいる。ボルソナロ氏もミレイ氏もアメリカのドナルド・トランプ前大統領と響き合い、「南米のトランプ」と呼ばれる。これで本家が来年の大統領選で返り咲きを果たせば、今まで通り「選挙は民主主義の根幹」と言い切れるかどうか心もとない。特集は「独裁は選挙から生まれる」。

★小誌創刊はマルコ旅立ちから5年後の1887年。今号から時評は新執筆陣、目次も刷新。挑戦を続ける。

編集長:五十嵐 文