2024年5月号【編集長から】

★自民党を取材していて、派閥の分裂劇を目の当たりにしたことがある。加藤紘一元幹事長が与党にもかかわらず森喜朗内閣に対する不信任決議案に賛成しようとした2000年の「加藤の乱」が不発に終わったことで、加藤氏率いる宏池会は求心力を失い二つに割れた。「加藤氏を首相に」と息巻いていた側近議員が加藤氏を次々と見限り、秘書は散り散りとなり、取材するわれわれ番記者もいがみ合った。どろどろした分裂騒動の後遺症を抱えたまま、森内閣の官房副長官だった安倍晋三氏の担当に配置換えとなった。安倍氏の側近や番記者の輪に溶け込めずにいると、安倍氏から「僕と同じ中学、高校の出身だね」と声をかけられた。学閥というつながりを探し当て、相手との距離を詰める人心掌握術の一端が垣間見えた。

★出身や利害などの共通項は、人を結びつけやすい。生前の安倍氏のように、反対勢力との違いを共通項に身内の結束を固め、自派を党内最大にするやり方もあった。自民党6派閥のうち安倍派や、旧勢力の再結集ができないままの宏池会(岸田派)など4派は、何を共通項に、どこに向かおうとしていたのかを語らないまま解散し、不透明感ばかりを残した。今号の特集は「閥の研究」とし、派閥だけでなく、日本の各界に根ざす財閥や学閥、地方閥の歴史やネットワークも掘り下げた。

編集長:五十嵐 文