2024年6月号【編集長から】
★福島県の復興に携わる友人の案内で4月初め、浜通りと呼ばれる太平洋沿いの県東部を訪れた。地元で水揚げされたメヒカリなどの「常磐もの」や、見頃を迎えた桜を堪能しつつ、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の経験を伝える関連施設を見て回った。県内初の震災遺構として2021年に一般公開が始まった浪江町立請戸(うけど)小学校の校舎は壁が崩れ落ち、鉄骨がねじ曲がるなど津波の爪痕が至るところに刻まれ、2階のかつての教室からは約6キロ南の第一原発の排気塔が見える。地震、津波、原発事故という複合災害の過酷さと、奪われた日常の記録に息が詰まった。
★震災から3年後の14 年、増田寛也元総務相らがまとめた「増田レポート」で、消滅可能性のある都市に分類された896自治体のリストに福島県内の市町村は一つも入らなかった。原発事故に伴う全町避難で浪江町の居住者が一時ゼロになるなど、状況が深刻すぎて将来人口を推計することすらかなわなかった。10年ぶりに更新されたリストで消滅可能性自治体は福島県内を含めても744に減ったが、日本全体の人口減少の基調に歯止めがかかったとは言いがたい。今号で全国1729自治体のデータを詳報したのは、それが誰かの日常と国の行方に影響すると思うからだ。地域の特性に合う対策の参考となれば幸いである。
編集長:五十嵐 文