2024年9月号【編集長から】
★今年、故郷広島に新たな名所が生まれました。エディオンピースウイング広島。Jリーグ、サンフレッチェ広島の本拠地は「まちなかスタジアム」を謳い、繁華街の紙屋町からも徒歩圏内の至便な立地です。ピッチと観客席の距離が最短8メートルという臨場感も売りもの。6月にはワールドカップのアジア2次予選が開催されました。「ここでプレーできる選手が羨ましい」「もっとこういうスタジアムが日本にできたら」という南野拓実選手のコメントを知り、誇らしい気持ちになりました。
★賑わうサッカースタジアムを離れ、南に15分ほど歩くと原爆ドームです。広島の人間にとって原爆の被害は遠い歴史上の出来事ではなく、私の祖母の妹も、原爆で命を失っています。いつも明るい祖母もその話になると口が重くなり、何も聞けず仕舞いでした。
★被害を思うと、投下したアメリカのみならず、惨禍を招いた日本の指導者たちに怒りを覚えます。しかし今号の特集で活写されているように、「組織の慣性」や「会議の雰囲気」に流された彼らの姿は、どこか私たちと地続きの存在に感じられます。「悪玉」を設定できない歴史は複雑ですが、だからこそ学ぶところが多いかもしれません。「まちなか」で文明の光と影が共存している広島の街を歩きつつ、昭和の戦争について考える夏にしたいと思います。
編集長:田中正敏