2025年3月号【編集長から】

★官僚ほどイメージに幅がある職業はないと感じます。日本の政治経済を裏から操る「悪の秘密結社」のように語られることも多く、最近は税金や社会保険料の負担の重さを反映してか、財務省や厚生労働省がやり玉に挙がることが多いようです。一方、近年はその働き方にも注目が集まっています。空調の効きの悪いオフィスで激務をこなし、責任に見合わない薄給で疲弊する気の毒な人々─。両者のギャップの大きさには驚きます。巻頭特集「官僚たちの正念場」では、元首相秘書官や現役官僚の声に耳を傾け、極論に偏らない実像を描きだします。また、主要官庁の変遷と現状を描いた五つの論考を通して、各省の来歴のみならず、行動原理も見えてくるはずです。地に足の着いた官僚論の一助になりますように。

★今年の新書大賞は三宅香帆さんの『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が受賞しました。書名を見てすぐに「自分のことだ!」と感じた読書好きの社会人の方は少なくないでしょう。個人的な体験から語り起こし、読書と労働をめぐる近現代日本の歴史をたどり、最後は果敢な提言へ、という練られた構成の裏には、過去の受賞作の徹底分析があったとは......。新書大賞も今回で「18歳」。2008年の第1回担当編集者として、たくましく成長した我が子を見る思いでした。

編集長:田中正敏

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