2025年5月号【編集長から】

★細谷雄一先生の研究室にうかがった際のこと。おもむろに操作したPCから流れてきたのは、2022年に急逝された中山俊宏先生の動画でした。トランプ現象の混乱の中で、力だけを信じるような価値相対主義が広がる危険性を指摘した発言は2011月のものですが、今こそ響く内容です。さらに強く印象に残ったのは、価値相対主義は賢そうに見える一方、規範や価値を訴え続ける人は時代遅れに見える、という指摘でした。たしかに「力こそが全て」という見方はクールですし、一面の真理があるとも感じます。トランプ政権の繰り出す政策に各国政府が右往左往し、また企業や大学がDEI(多様性、公平性、包摂性)推進を瞬く間に見直している現状を目の当たりにしていると、深くうなずきたくもなります。

★それでも、規範や価値なき世界の未来が明るいとは思えません。今号の2大特集で描いているとおり、国際秩序も国内の民主主義も大きな危機を迎えています。経済学者アルフレッド・マーシャルの「クールヘッドとウォームハート」という言葉が示すように、両者のバランスをとりながら少しずつ事態を改善していくしかないのでは......中山先生のダンディな姿と声を懐かしく感じながら、考えました。先生、『ロバート・ケネディ』の書籍企画、実現させたかったですね――。

編集長:田中正敏

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