2025年11月号【編集長から】
★職業柄、伝統的な活字媒体を擁護したい気持ちは強いですが、新しいメディアの魅力は強烈です。世界中の映画やスポーツが揃えられた動画配信サービス、どんなニッチな趣味でも同好の士が見つかるSNS......。しかし、そんな時代だからこそ、本だけが持つ力がだんだん見えてきたようにも思います。第1特集「令和の読書と知的生産術」には、時代の変化を受け止めたうえで、本を読むことの意義を捉え直す論考が並んでいます。
★私の考える本の魅力としては、まず情報としての圧倒的な「コスパ」「タイパ」の良さがあります。同額の講演や動画に対して、本に詰め込まれた情報の量と精緻さは比べものにならないはず。また、活字であれば1分で伝わる情報を、動画だと5分見なければならないことに苛立つ「活字派」は少なくないはずです。さらに子育てをしていると、書棚に並んだ親の蔵書が目に入ることの効果も実感します。これは紙の本ならでは。世代を超えて情報を受け継ぐ手段として、古代より用いられてきた本の底力は侮れません。★それでは、雑誌の力とは? 私が惹かれる雑誌は、フィルターバブル状態に陥らず、何でもありの無規範にもならず、一定の幅を持ちながら魅力的な世界観で貫かれている「箱」です。『中央公論』が皆さんにとってそんな存在であるよう、編集に励みます。
編集長:田中正敏
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