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有國明弘 黒人が生み出した「ストリートの知恵」――ヒップホップは何を映し出すか

有國明弘(大阪市立大学大学院文学研究科後期博士課程)

ストリートの知恵

 ヒップホップは娯楽であっただけでなく、ギャングの抗争の際に銃や暴力による流血を避け平和的解決をはかるために、ブレイクダンスやラップで競ったり、ギャングの縄張り周知や情報交換のために、グラフィティを用いたりした、とも言われている。

 ヒップホップ文化には反社会的な側面もある。その一方で、若者が当時のニューヨークのストリートにあふれる貧困や暴力、犯罪、差別構造といった様々な社会的困難を乗り越えていくために、そのネガティブなエネルギーを少しでもクリエイティブな方向へと向けさせる教育的な側面も有していた。

 ラップの歌詞の内容は、暴力的・好戦的で、社会に反抗的なメッセージが多い。それは、発言権が限られ社会的に抑圧されているマイノリティの、不安や無力感、反感を抱える内面的葛藤などがラップの主題となってきたことが関係しているためである。

 その意味でラップは、抑圧された人々の声や状況を、アートの力を借りて形にし、社会に発信するための、まさに黒人が生み出した「ストリートの知恵」と言えよう。「ストリートの知恵の強さを見せてやろう」――そう歌うのは、ヒップホップが誕生した東海岸ニューヨークではなく、西海岸のLA近郊コンプトン発のあるヒップホップグループである。

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