有國明弘 黒人が生み出した「ストリートの知恵」――ヒップホップは何を映し出すか

有國明弘(大阪市立大学大学院文学研究科後期博士課程)

国家権力と闘った西海岸ヒップホップ

 LAでは、アフリカ系アメリカ人への社会的抑圧が強く、そのストレスは大規模な暴動をいくつも引き起こしてきた。常に人種的な緊張関係にさらされてきたLAの黒人たちは、ヒップホップを用いて抵抗を示した。

 その代表が地元コンプトン出身のメンバーで構成されたN.W.Aで、90年代に最も影響力を持ったヒップホップグループである。LA近郊の黒人コミュニティも多くが貧困層であり、若者らは生きていくための手段としてギャングに所属したり、ドラッグディーラーをしたりなど、常に犯罪や危険と隣り合わせの生活を強いられる者が少なくない。

 そのため黒人は常に警察から厳しく取り締まられる。不当な暴力にさらされている黒人コミュニティの非常にハードな生活を過激なラップで表現してきたのが、N.W.Aである。彼らのメッセージは当局のやり方や黒人を取り巻く状況を、全米が直視すべき社会問題として提示したのであった。

 N.W.Aのメンバーだったドクター・ドレーは、音楽プロデューサーとして数々のアーティストを見出してきた、ヒップホップ界の最重要人物である。その彼が、自身が手がけてきたアーティストらと共にパフォーマンスしたのが、冒頭でふれた今年のスーパーボウルのハーフタイムショーだ。

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