(『中央公論』2023年3月号より抜粋)
- ウクライナ戦争の見取り図と日本の将来の羅針盤として
- 教科書にしてほしい一冊
- 社会のシステムを動かすための思考実験
ウクライナ戦争の見取り図と日本の将来の羅針盤として
小説やエッセイ、絵本、図鑑など、ジャンルにこだわらず様々な本を読みますが、新書の役割はたぶん、専門書と一般書の橋渡しなのかなと思います。分厚い専門書は一般人には読み切れないし、かといって一般向けに噛み砕きすぎると、根幹の部分を掬い切れない。読みやすく書かれていても、根幹となる学術的な土台はしっかりしている、というのが私の新書のイメージです。
日本史が好きなのでよく「歴女」として紹介していただきますが、歴史を学びたいと思って本を読んでいる、というよりも、楽しいから読んでいる、といったほうが正確です。だから、かなり偏った説の本も読むし、歴史物のフィクションも大河ドラマも好きです。新書で読むとなると時事に寄りがちですが、歴史と現代は地続きという意味では、時事も歴史の一部だと思っています。
そうした点からまず挙げたいのは、小泉悠さんの『ウクライナ戦争』(ちくま新書)です。
昨年の2月24日にロシアがウクライナに侵攻して以来、小泉さんのTwitterを追いかけて、出演されているテレビも拝見しています。現実をなるべくリアルタイムで詳しく見ておきたいからです。
小泉さんは、軍事専門家として侵攻前からこの問題をウォッチし、突出した情報収集力をもとに書いているからこそ、現状の分析が鮮明で説得力があります。
そもそもロシアのプーチン大統領はなぜ武力行使を決断したのか、侵攻に踏み切るまでにクリミア半島を含めてどういう経緯があったのか、戦況のポイントと今後の予想など、誰もがニュースなどを見て疑問に思うことを分析し、わかりやすい見取り図みたいなものを示してくださっているような気がします。
今回の戦争を知り、今後も観察していくうえで重要な本です。集団的自衛権や防衛費の増額など、日本の安全保障はこれからどうしたらいいのかということにも関わり、早めに読んでおいたほうが良いと思います。