YouTubeチャンネル「みのミュージック」で配信する独自の音楽評論が人気を集め、ビートルズにも造詣が深いみの氏が、昨年発表されたビートルズの新曲の音楽史的な意義を論じる。
(『中央公論』2024年2月号より抜粋)
(『中央公論』2024年2月号より抜粋)
昨年末、ビートルズが27年ぶりに新曲「ナウ・アンド・ゼン」を発表した。AI技術の進歩に伴い、音質が劣悪なジョン・レノンの未発表デモテープからヴォーカルを抽出することが可能となり、存命のメンバーであるポール・マッカートニーと、リンゴ・スターが肉付けをすることで楽曲を仕上げたのである。加えて、過去のジョージ・ハリスンの録音や、ビートルズ時代の音源も使用されたという。
解散から実に53年もの月日が流れているにもかかわらず、本国イギリスではシングルチャートで首位を獲得。洋楽が売れなくなって久しい日本でも、トップテン入りを果たすなど大きな話題となったのは記憶に新しい。
プレスリリースでは「最後の新曲」であることがしきりに強調され、付随してリリースされたミュージックビデオの末尾では、メンバー全員が深々と頭を下げ、ステージの照明が落とされる演出がなされた。新たな楽曲を聴くことができる喜びと同時に「本当にこれが最後なんだな」と、ビートルズの終局を正式に目の当たりにする悲しみを味わった人も、少なくないのではないだろうか。
若いジョンと老いたポールがハーモニーをつける旋律に、永い時間の経過を痛感せざるを得なかった。今や後期高齢者となったポールとリンゴが元気なうちに有終の美を飾り、最後にファンへ気の利いたプレゼントを贈った。このようにストレートに受け止めることも可能である。
しかし、最後にしてはやけにマイナー調で憂いを帯びた本曲に、録音芸術史の大きな転換点を象徴する、極めて重大な意味が込められている気がしてならない。