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水野太貴「「女ことば」の背後にあるもの――社会言語学者・中村桃子さんに聞く」

水野太貴(「ゆる言語学ラジオ」チャンネル)×中村桃子(関東学院大学名誉教授)

社会の変化と密接不可分

 単刀直入に「なぜことばは変化するのか?」と問うと、中村さんは「それに簡単に答えられるなら、言語学はいらない」とにっこり。そのわけをこう語った。


「私が、ことばの変化と社会の変化は区別できないという立場に立っているからです。

 例えば『セクハラ』ということばがありますよね。職場で女性が体を触られたり、しつこく食事に誘われても、セクハラという語がない時代では、不快感を表明しづらかったり、人に相談してもおおごとだと捉えてもらえませんでした。しかしセクハラという語が普及すると、相手に『セクハラだからやめてください』と言ったり、あるいは訴訟といった手段を選択肢に入れたりすることが可能になりました。

 このように、ことばの変化と社会の変化は密接不可分です。社会がことばを変えることもあれば、ことばが社会を変えることもあるのです」


 中村さんが専門とする社会言語学は、社会と言語の関係を調べる分野だ。前回、ことばの変化の要因を内的要因、外的要因の二種類に大別したが、社会言語学はことばの変化の外的要因を扱う学問だということができる。そして中村さんがキャリアをかけて取り組んできたことのひとつが、「女ことば」である。

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