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鈴木由美 「鎌倉殿の13人」ロスの方々に捧ぐ、北条氏をめぐるブックガイド

鈴木由美(中世史研究者)

重時、時頼、時宗...... 伝記で知る素顔

 伝記のシリーズとして名高い吉川弘文館の人物叢書でも、北条氏に関連する書籍は複数刊行されており、その生涯や家族、信仰や後世の評価などがまとめられている。「鎌倉殿の13人」以後の時代に活躍した主な北条一族の伝記には、森幸夫『北条重時』(2009年)、高橋慎一朗『北条時頼』(2013年)、川添昭二『北条時宗』(2001年)などがある。

 例えば北条重時は北条義時と姫前〔ひめのまえ〕(比企朝宗〔ひきともむね〕の娘。「鎌倉殿の13人」では比奈〔ひな〕)との間の子で義時の三男であり、長期にわたって六波羅探題(後述)を務め、連署として第5代執権北条時頼(義時の曽孫)を支えた。本書では、重時の行動から、彼を真面目で正直な人物であったと評している。

 北条時頼は第5代将軍九条頼嗣(よりつぐ)を京都に送還し、第3代将軍源実朝の暗殺以来幕府の念願であった親王(後嵯峨天皇の皇子宗尊〔むねたか〕親王)を第6代将軍として迎える。時頼は執権を辞任した後も北条氏の当主である得宗として権力を握り続けた。本書では時頼が仏教に深く帰依した姿や、謡曲「鉢の木」で有名な廻国(かいこく)伝説などについても記されている。

 北条時宗は時頼の子で第8代執権として幕府を主導し、文永(ぶんえい)11年(1274)と弘安(こうあん)4年(1281)の2度にわたって元〔げん〕(モンゴル帝国)が日本に侵攻してきた「蒙古襲来」を戦った。大河ドラマ「北条時宗」で和泉元彌が演じた姿を記憶している人も多いであろう。

 本書では禅僧の語録から時宗の信仰を浮かび上がらせ、鎌倉幕府の問注所執事(長官)であった太田康有〔やすあり〕(「鎌倉殿の13人」にも登場した三善康信〔みよしやすのぶ〕の孫)の公務日記『建治(けんじ)三年記』から、時宗が自らの別荘である山内殿(やまのうちどの)にいながら太田康有を呼びつけて政務を執る様子などを明らかにしている。

 いずれの書も、伝記という枠を踏まえつつ同時代の政治史や宗教史などにも関連づけ、史料に基づいて誠実にその人物像を描き出している。

 安田元久編『鎌倉将軍執権列伝』(秋田書店、1974年)は、鎌倉幕府の将軍9人・執権16人の伝記集である。その後継たるべく編まれたのが、日本史史料研究会監修・細川重男編『鎌倉将軍・執権・連署列伝』(吉川弘文館、2015年)だ。鎌倉幕府の将軍10人(9代+「尼将軍」北条政子)と執権17人(16代+17代執権就任の可能性がある金沢〔北条〕貞将〔さだゆき〕)、連署8人の伝記を列伝形式で綴る。

 本書には、史料が少ないためにこれまで語られることが少なかった人物、例えば第14代連署北条茂時や第9代将軍守邦親王などの軌跡と伝承が記されている。巻末に載る「鎌倉幕府将軍職経歴表」「鎌倉幕府執権・連署経歴表」は、史料的根拠を挙げてそれぞれの経歴を一覧にしてあり使いやすい。

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