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8月15日で終わらなかった「日ソ戦争」の悲劇――「忘れられた戦い」が戦後日本の運命を決めた

麻田雅文(成城大学教授)×山添博史(防衛研究所米欧ロシア研究室長)
山添博史氏(左)、麻田雅文氏(右)
 1945年8月8日、ソ連による一方的な中立条約破棄で始まった日ソ戦争は、両軍の参加兵力が200万人を超える第二次大戦最後の全面戦争でありながら、現代日本での認知度は高いとはいえない。『日ソ戦争』(中公新書)で読売・吉野作造賞を受賞した麻田雅文・成城大学教授と、防衛研究所の山添博史・米欧ロシア研究室長がこの戦争の位置づけをめぐり対談した。
(『中央公論』2025年9月号より抜粋)

――1945年8月15日の昭和天皇による玉音放送をもって太平洋戦争の終結とする「玉音放送史観」は、近年ではさまざまな視点から批判的検証がされています。この史観の問題点の一つが、満洲や朝鮮半島、南樺太や千島列島で9月上旬まで続いたソ連との戦争の記憶を剝落させてしまうことです。麻田さんの『日ソ戦争』が今年の読売・吉野作造賞に選出されたことは、「終戦」の意味が再考されるきっかけになるのではないでしょうか。


麻田 ありがとうございます。2006年に長谷川毅先生の『暗闘 スターリン、トルーマンと日本降伏』が同賞を受けていることもあり、テーマが近い私の研究で受賞できるとは考えておりませんでした。長谷川先生をはじめとする先行研究の礎があってこそ、そこからの20年での研究の進歩があったわけで、非常に感慨深いものがあります。


山添 ロシア研究を専門としている私にとっても、新しく学ぶことが多い一冊でした。また森繁久彌さんや宝田明さん、赤塚不二夫さん、五木寛之さんといった著名人による、ソ連占領時の満洲・朝鮮での凄惨な体験の証言も多く紹介されています。非常に重いテーマを実感しやすく書かれており、誰にとっても有益な本になっているのに感嘆しました。


麻田 もったいないお言葉です。多くの方にとって日ソ戦争はあまりなじみのない史実ですし、昭和の文化人たちの経験を紹介することで、もっと身近に感じてもらえるのではないかと考えました。

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