東方文化の伝統が
最も残っている国だと思う
「八〇后」の代表格の一人といわれ、高校時代から小説家、女優、歌手としてマルチに活躍するタレントの田原(二十五歳)にも会うことができた。おしゃれなエリアで知られる三里屯(サンリートン)のカフェで、彼女は来日したときの印象を鋭い視点でこう語ってくれた。
「実際にこの目で見た日本は予想と少し違っていました。日本人は自然を尊重し、万物に神様が宿っていると信じている。『空師(そらし)』(高木に登り、枝下ろしや伐採をする職人)という専門職の話を聞いたときは感動しました。枝を見極めて伐採するとき、感謝の祈りを込めて塩とお酒を幹に撒くのです。この話を聞いて、日本に尊敬の念を持ちました。お祭りを大事にしたり、夏に女の子が浴衣を着て花火大会に行ったりするのもとてもいい習慣。日本はアジアの中で最も東方文化の伝統が残っている国だと思いました」
「それに引き換え、中国では文化大革命などによって文化に断層があり、街を見渡しても高層ビルが立つばかりで中国的な伝統文化は感じられません。経済発展のスピードが速すぎてじっくり本を読む時間もないのは、はたして幸せなことでしょうか。私たちが中国にいて清潔で安全な日常生活を手に入れるためには、かなりの対価を支払わなければならない。日本では当たり前だったり無料だったりすることなのに......。日本の景気が悪く日本人は暗く悲観的になっていると聞くけれど、冷静に物事を考える時間を持てるのは、よい面もあると思います」
日本人が日ごろ意識していない日本独自の伝統文化の継承や、清潔で安全な社会生活を送れるということ。それ自体が、海外の人から見ればどんなに尊く得がたいものであるか。そうしたことを旅行や短期留学に来た若い中国人が感じ取っていることに私は驚いた。
今、中国は日本から
たくさん学んでいる最中です
では、一度も日本に来たことがない若者はどう感じているのだろうか。
日本文化を専攻する大学院生の張潔(仮名、二十三歳)と待ち合わせをしたのは中国の大学の最高峰、北京大学の西南門だった。実は私自身、彼女が生まれたばかりの二二年前、大学三年生の夏休みを利用して北京大学に短期留学をした経験がある。まだ北京市内を走る車もまばらで、外国人用の貨幣が存在したのどかな時代、今の彼らと真逆の立場で中国を体感する側にいた。久しぶりに当時のことを思い出しながら張を待った。
「歴史の授業では、日本の指導者は悪いことをしたけれど、日本人は悪くないのだと習いました。戦争で日本人も被害を受けたのだと理解できます」
こう語る張は日本に行った経験は一度もないが、日本のアニメ「NARUTO(ナルト)」を信奉し、日本のアイドルグループ、嵐のファンだという。
「昔々、日本は中国から多くのものを学び成長しました。今、中国は日本からたくさんのものを学んでいる最中でしょう」と語るが、大学院に進学後、中国人に生まれたプライドを日々感じるようになったという。
「中国の悠久の歴史や漢字はすばらしい文化だと思うし、中国はまだ経済発展している途中段階だと思う。不満を持っている人もいるけれど、私は今、この時代に中国に生まれてきたことを幸せだと感じています。田舎に住む親が毎日電話をかけてきて私を精神的、経済的に支えてくれる。おいしいものも食べ、勉強もできる。親が年を取ったとき、今度は一人っ子の私が家族を支えなければと思います」