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鈴木英司 日中友好の士が中国の獄中で過ごした6年

鈴木英司(元日中青年交流協会理事長)
鈴木英司氏
 中国でスパイ活動をしたとして2016年に当局に拘束され、懲役6年の実刑判決を受けた日中青年交流協会の元理事長、鈴木英司さん(65)が10月、刑期を終えて出所し、日本に帰国した。日中友好に尽くした「友好人士」への非情な扱いは、習近平国家主席をトップとする中国共産党内の権力闘争と関係があったのか。これまでほとんど明かされることのなかった中国当局による取り調べの手法や中国刑務所の実態について、鈴木氏が詳細に語った。
(『中央公論』2023年1月号より抜粋)

 出所したのは22年10月11日です。収容されていた「北京市第二監獄」で、拘束された時に着ていた背広など所持品を返還され、北京首都国際空港第3ターミナルに車で送り届けられました。6年前、知らない男たちに無理やり車で連れ去られた、あの場所です。嫌な記憶がまざまざと蘇ってきました。

 帰国便は日本の航空会社にしたかったのですが、その日も翌日も便がなく、あと2日もどこかの収容施設で待たねばならないというので、中国国際航空の便で我慢しました。中国の飛行機ですから、搭乗してからも急に連れ戻されるのではないかと、成田空港に着陸するまで心配でした。ちなみに約7000元(約14万円)の航空券は自腹での購入です。

 実家にたどり着くと、家族が夕食に刺し身を出してくれました。拘束されていた6年間、いつも日本のことを思っては「帰ったらまず、寿司を食べよう。それから刺し身、ラーメン、カレー、とんかつ、の順だな」などと思い描いていたものですから、うれしかったですね。拘束当時98キロあった体重は、68キロまで減っていました。おかげで、以前の悪い数値は全部改善しましたがね。(笑)

 テレビのチャンネルを替えると、大好きな石川さゆりの歌声が聞こえてきました。中国で捕まっている間、「津軽海峡・冬景色」や「天城越え」を頭の中で歌い、折れそうな心を鼓舞していました。「帰って来られたんだな」。思わず涙が出ました。

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