政治・経済
国際
社会
科学
歴史
文化
ライフ
連載
中公新書
新書ラクレ
新書大賞

安中 進 核保有は国際紛争を抑止するのか?――計量分析から考察する戦争(下編)

安中進(弘前大学助教)
写真提供:photo AC
(『中央公論』2023年4月号より)

同盟国の多さが勝利につながる

 次に、同盟関係にも目を向けてみよう。一般的に抑止力には、自国のパワーに由来する直接抑止と、同盟国を含んだ拡大抑止がある。そして抑止力には、通常兵器に由来するか、核兵器をも含んだパワーに由来するか、といった差異も存在する。ウクライナの問題では、これらが絡み合っているといえるだろう。

 しかし、ここにも留意すべき点があり、それはウクライナが欧米各国の公式な同盟国ではないことだ。よって、同盟に関係する実証研究は数多く存在するが、それをそのままウクライナに当てはめることはできない。それでも、Lai and Reiter(2000)によれば、1816年から1992年までのデータからは、似通った政治体制であると、同盟を形成しやすいとされる。これは、ロシアよりは相対的に民主主義体制に近いウクライナが、欧米諸国から同盟国のように支援されている現状とも矛盾しない。

 そして、近年の研究が示唆しているのは、民主主義国家の同盟関係の強固さである。Graham et al.(2017)は、民主主義国家が結ぶ同盟は、参加する国が多いため、戦争の勝利につながると主張している。ロシアは、ベラルーシなどの国々とは良好な関係を維持しているものの、その相手国の数は、ウクライナを支援する民主主義国家の比ではないだろう。こうした非対称的な関係がウクライナの激しい抵抗にも表れていると考えられる。

1  2  3