3ヵ国調査から見える同盟の効力
核保有や核攻撃には世論の動向も重要な役割を果たすと考えられており、観察データだけではなく、世論調査を用いた実験的研究も多く行われている。
Press et al.(2013)は、シリアで核兵器製造が疑われるアルカイダの施設に対してアメリカが核兵器を使用するという架空のシナリオを用いたサーヴェイ実験をしている。この研究は、核兵器によって直接反撃してこないと思われる相手に対しては、米国民が必ずしも核の使用に抵抗意識をもっていないと指摘している。
一方、Allison et al.(2022)は、もし北朝鮮が日本や韓国に核攻撃を行った場合、同盟国のアメリカが代わりに反撃を行うことを支持するか否か、それぞれの場合を米日韓の国民に架空のシナリオを用いてサーヴェイ実験をしている。結果からは、北朝鮮のようにアメリカにも直接的に核兵器を使用しそうな国に対しては、米国民は、日本や韓国の代理で反撃することに消極的であることが明らかになっている。つまり、日本や韓国のようにアメリカと正式な同盟関係にあっても、必ずしも核の傘が有効に機能しないことを示唆している。
これに対して、Smetana and Onderco(2022)は、ロシア国民の核攻撃への態度を分析している。この研究によれば、核使用を決定する当のプーチンがどう思っているかは不明だが、少なくともロシア国民は、核攻撃の実行に消極的な傾向が見られる。
核保有や核攻撃に関する研究の知見をまとめると、核保有や核保有国との同盟関係は、他国から攻撃される可能性を低下させるが、実際に核の撃ち合いが想定される場合には、核保有国との同盟関係が必ずしも機能するとは限らないと考えられる。
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本稿では、日本で十分に紹介されているとはいえない実証的な研究における、政治体制や同盟、核兵器が戦争に与える影響の分析を紹介した。地域研究や質的・理論的な研究が重要なのはいうまでもないが、過去の豊富なデータを利用した知見が生かされないのも問題がある。本稿が、こうした言論の現状に対して新たな視点をもたらす一助となれば幸いである。
〈参考文献〉
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秋山信将「『ウクライナは核を放棄したからロシアに侵攻された』という議論が見逃していること」現代ビジネス、2022年3月1日付
1984年埼玉県生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、日本学術振興会特別研究員などを経て、早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。博士(政治学)。2022年10月より現職。専門は比較政治経済学、計量政治経済史。博士論文「貧困の政治経済学」で小野梓記念学術賞受賞。近刊に『貧困の計量政治経済史』(岩波書店)がある。