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井上弘貴 変容と再編が進むアメリカの保守主義――ネオコン、ペイリオコン、オルトライト、ポストリベラル保守......

井上弘貴(神戸大学大学院教授)
写真提供:photo AC
 神戸大学教授の井上弘貴さんが、戦後アメリカの保守主義の知識人と潮流を振り返り、その現在地を解説。主流と傍流はいかに変化していったのかを読み解く。
(『中央公論』2023年4月号より抜粋)

共和党内のパワーバランスの変化

 昨年秋の中間選挙を経て、2023年の年頭に開会したアメリカ連邦議会下院は、当初から波瀾含みでスタートした。下院で多数派を占めた共和党の院内総務、ケヴィン・マッカーシーが下院議長に選出されるまで、1月3日から5日間にわたって15回も投票が繰り返される事態になったのだ。

 マッカーシーといえば、21年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件の直後、トランプ批判の側につこうとしたものの、共和党支持者の多数がトランプへの支持を失っていないことを感じとるや、トランプの邸宅マールアラーゴのあるフロリダに飛んで、にこやかに彼と写真に収まり、恭順の意を示した人物である。その風見鶏的な態度は、党内強硬派の議員たちから不信の目で見られていた。途中経過で多少の変動はあれども、マッカーシーに投票しなかった共和党下院議員は20名。そのほとんどがフリーダム・コーカスという強硬派の議員集団に属する議員である。『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、そのうちの17名が選挙の際にトランプの支持を得ていた。この議員たちのなかには、いわゆる「盗まれた選挙」(20年の大統領選挙には不正があったと言い募るトランプの裏づけのない主張)に共鳴してきた者たちも多数含まれている。

 日付が変わって1月7日未明、15回目の投票で、かれらは最終的にマッカーシーに一票を投じるか、あるいは出席だけして投票しないことを選んだ。

 マッカーシーに反旗を翻したかれらは、最近のメディアでは共和党内の保守派と呼ばれることがある。注意したいのは、保守とは一体この場合、何を意味するのかである。

 反ユダヤ主義への傾倒著しいラッパーのカニエ・ウェストが昨年11月、マールアラーゴでトランプと面会した際、白人至上主義者のニック・フエンテスを同席させて物議を醸したが、反マッカーシーの投票を続けた一人であるアリゾナ州選出のポール・ゴサールは、選挙資金集めのイベントで過去にこのフエンテスと同席し、その際に仲良く写真に収まった。ゴサールはこの件で非難を受けたものの、彼は極右であることをなんら隠していない。

 ジョージア州選出の共和党の下院議員で、陰謀論を主張し続けるマージョリー・テイラー・グリーンは、ゴサールたちとは異なり一貫してマッカーシーを支持し、党主流派の覚えをめでたくした。トランプの意向を議場に届けるメッセンジャーとしてふるまう彼女もまた、フリーダム・コーカスの一員である。

 現在、アメリカでは保守という言葉の内実が大きく変化しつつあり、共和党内部の力関係の移り変わりも、保守の内実の変化と密接に連動している。これまでの動きをつかみ、そしてこれからの動向を占うためにも、戦後アメリカの保守主義思想をかたちづくってきた知識人たちの世界の地殻変動を振りかえっておくことが必要かもしれない。

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