井上弘貴 変容と再編が進むアメリカの保守主義――ネオコン、ペイリオコン、オルトライト、ポストリベラル保守......

井上弘貴(神戸大学大学院教授)

トランプ勝利に勢いづく傍流

 保守主流が動揺し、傍流が反転攻勢に出たのは、2016年11月のトランプの大統領選挙勝利がきっかけだった。15年から16年にかけて保守主流の知識人たちは、共和党内のエスタブリッシュメントとともに反トランプのキャンペーンに加わり、『ナショナル・レヴュー』は、16年1月に反トランプ特集を組んでトランプ批判を展開した。

 しかし大方の予想に反してトランプが当選すると、主流からのトランプ批判は鳴りを潜め、『ナショナル・レヴュー』も一転してトランプに擦り寄った。反トランプをあくまでも堅持する者たちは、保守陣営のなかで次第に影響力や発言の機会を失った。まさにネオコンの知識人たちが、その格好の例だった。かつてネオコンの代表的雑誌の一つだった『ザ・ウィークリー・スタンダード』は、販売不振から18年末に終刊に追い込まれた。同誌の創刊者だったウィリアム・クリストルたちは『ザ・ブルワーク』というウェブ雑誌を立ち上げて、共和党という政治的本籍地を失ったまま、活動を続けることになった。

 トランプ登場以前から、傍流による反撃の兆しはあった。00年代からペイリオコンたち、あるいはもっと異端的な白人ナショナリズムら「反体制右派」は、ブッシュ政権の政策を後押しするネオコンや『ナショナル・レヴュー』に集う主流への不平不満を匿名掲示板サイトに書き込んでいた。


(続きは『中央公論』2023年4月号で)

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井上弘貴(神戸大学大学院教授)
〔いのうえひろたか〕
1973年東京都生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(政治学)。専門は政治理論、公共政策論、アメリカ政治思想史。著書に『ジョン・デューイとアメリカの責任』『アメリカ保守主義の思想史』、共訳書に『ユニオンジャックに黒はない』『市民的不服従』など。
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