影響力の低下が指摘されるトランプ元米大統領。彼なき後のアメリカ政治はどこへ向かうのか。トランプ大統領誕生を的中させた横江公美教授が、「世代論」の視点から分析する。
(『中央公論』2023年4月号より抜粋)
(『中央公論』2023年4月号より抜粋)
- 世代論という視点
- 人口動態が示す民主党の優位
- なぜトランプは勝利できたか?
世代論という視点
お気づきの方もいるだろう。今のアメリカは民主党の時代である。そして、少なくとも今後10年は民主党の時代が続く。
ドナルド・トランプは時代が急速に変化する中で、時代に取り残された人々の心を掴んだ。だが、時代の大きなうねりには勝てない。共和党は行き先を失い、党員ではなかったトランプに活路を見出したが、もはやトランプでは太刀打ちできない時代の大きな波が押し寄せている。
なぜそう言えるのか。アメリカ政治の今後をうらなう上で参考になるのが、人口動態などを重視する「世代論」という考え方である。
2008年3月にモーリー・ウィノグラッドとマイケル・D・ハイスによる『アメリカを変えたM(ミレニアル)世代』(邦訳2011年)が出版されたことが、世代論に注目が集まるきっかけとなった。その年に行われる大統領選挙で、1980年以降生まれの「ミレニアル世代」がバラク・オバマ大統領を誕生させると予想し、見事に的中させたのだ。世代論はビジネスでは昔から多用されてきた考え方だったが、学術の分野では後付けであるとして立場が弱かった。それがオバマ大統領の誕生によって、政治の現場でも世代論が徐々に注目されるようになっていったのだ。
私は日本語版の監訳を担当した縁でこの本と出会った。もしこの本を知らなかったら、トランプ登場後の今のアメリカを分析する術を持ち得なかったと思うほどの内容だった。
2016年4月に出版した拙著『崩壊するアメリカ』で、世代論をもとにトランプ大統領誕生の可能性を示唆したところ、大統領選挙直後に「トランプの当選を予想した」として『ワシントン・ポスト』からインタビューを受けたこともある。『アメリカを変えた世代』が出版されてから10年以上が過ぎるが、その分析通りにアメリカは進んでいる。