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横江公美 これから10年は民主党の時代へ――トランプ大統領誕生を予想した「世代論」でアメリカ政治を読み解く

横江公美(東洋大学教授)

人口動態が示す民主党の優位

『アメリカを変えた世代』の区分によると、2008年からの約40年間は民主党の時代になる。その前の1969年から2004年までは共和党の時代とされる。このリチャード・ニクソン大統領就任からジョージ・W・ブッシュ(子)2期目就任までは、共和党が大統領選挙で7勝3敗を誇った。

 この時代は冷戦とポスト冷戦の時代と重なる。ニクソン大統領が冷戦を加速させ、ロナルド・レーガン大統領が冷戦終結を決定づけた。そしてブッシュ親子大統領はポスト冷戦時代にレーガン路線を継承し、湾岸戦争(1991年)、アフガニスタン戦争(2001年)、イラク戦争(03年)を起こした。

 だが、冷戦時代の対立構造がもはや存在しない中東に、旧来のアプローチが通用しないことが白日の下に晒されたのが、2期目のジョージ・W・ブッシュ政権である。その時権勢を振るったディック・チェイニー副大統領とドナルド・ラムズフェルド国防長官は、今やアメリカを間違った戦争に導いた国賊として扱われることが少なくない。時代が変われば過去の成功体験が通用しないことを示す好例と言えよう。この時代は「レーガンのアメリカ」と言うとわかりやすいだろう。

 それに対し、オバマが大統領選挙に勝利した08年以降のアメリカは「オバマのアメリカ」と言えるのだが、なかなかそうは見えない。変化は一日にして成るものではないので、気がつかないのだ。

 著者の一人であるモーリー・ウィノグラッドに、12年にオバマ大統領が再選された直後にインタビューをしたことがある。その際に、彼は「ほとんどのオピニオン・リーダーは世代論を理解していない。理解しているのは、ほんの数人だ」と語った。その理由は簡単で、オピニオン・リーダーの分析の成功体験は「レーガンのアメリカ」にあるので、まだ古い時代の物差しを使っているというのである。08年の大統領選挙の民主党予備選挙で、ヒラリー・クリントンがオバマに負けた時から、新しい物差しが必要になったと彼は主張する。

 今や、「レーガンのアメリカ」の物差しだった冷戦をほとんど知らない世代であるミレニアル世代が、アメリカ社会の中枢になってきている。続く「Z世代」はミレニアル世代の延長としての特徴を持つ。多様性を重視するこれらの世代は、リベラルな民主党を支持する傾向にあるとされる。

 この約20年の大統領選挙の結果を見ると、世代の変化が着実に政治に影響を与えていることに気づく。アメリカの大統領選挙は、投票が州ごとに行われ、その州の勝者が人口などに応じて割り振られた「選挙人」を総取りする仕組み(一部の州を除く)になっている。そのため全米の得票数では上回っても、敗退するという事態が起こりうる。


 実際、「オバマのアメリカ」が始まる少し前の00年から20年までの6回の大統領選挙を見ると、民主党は3勝3敗だが、全米の総得票数では5勝している。00年の選挙で共和党のジョージ・W・ブッシュは接戦州のフロリダ州を制して大統領になったが、全米の総得票数では民主党のアル・ゴアが勝っていた。トランプが大統領になった16年選挙でも総得票数ではヒラリー・クリントンが勝っていたのだ。

 人口動態を見ると、民主党の時代は少なくとも10年、長ければ20年は続くと思われる。全米国勢調査によれば、全人口に占める白人の割合は00年に初めて70%を割り、08年には65%、最新の20年には60%を割っている。5歳以下で見るとさらに顕著で、16年に50%を割り、20年には49・4%である。白人が有権者数においても過半数を失うのはもはや時間の問題だ。マイノリティ・グループは通常、民主党寄りになるので、今の人口動態は民主党がますます強くなることを示唆している。

 人口動態の変化が確実に選挙結果に影響を与えていることは、昨年11月に行われた中間選挙の結果からも明らかだ。共和党の圧勝が予想されていたものの、下院では過半数を制したがその差は予想外に小さく、上院においては議席を一つ減らして過半数を割った。共和党が時代に合わせて生まれ変わらない限り、民主党の時代はしばらく続くだろう。

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