(『中央公論』2023年7月号より抜粋)
- 著書がブック・オブ・ザ・イヤーに
- きっかけは東大入学式の祝辞
- 中心は20代から30代
著書がブック・オブ・ザ・イヤーに
今中国で、社会学者でフェミニストの上野千鶴子がカリスマ的な人気を博している。昨年9月に出版された作家・鈴木涼美との共著『往復書簡限界から始まる』(『始于極限』)は、中国最大の書評SNS「豆瓣(ドウバン)」のブック・オブ・ザ・イヤーに選ばれただけでなく、この原稿を書いている5月中旬時点でも週間ランキング3位にとどまっている。
北京大学構内にある書店の2022年ベストセラーランキング1位は、2015年に出版された上野の『女ぎらい』(『厭女』)だった。都市の書店にはどこもフェミニズムのコーナーができ、上野の著作がずらりと並んでいる。
昨年9月、学生からの強い要望もあり、私の所属する北京大学外国語学院日本語学科では上野にオンライン講演を依頼した。コロナ下ということもあって、会場は100名限定、参加者は日本語学科の学生のみで、通訳なしの日本語の講演としたにもかかわらず、北京どころか全国からの問い合わせで担当者の携帯電話は鳴り続けた。
会場参加と同様、学科生のみに限定したはずのオンライン聴講にも希望者が殺到し、上野本人が一時アクセスできなくなるという事態にまでなった。講演前日に学生が、「いよいよ明日、上野先生本人に会えると思うと涙が出そう」とウィーチャット(中国の大手メッセージアプリ)に書き込んでいたのを見て、改めてその熱意に驚かされた。
また、今年2月には大手メディア「新京報」主催のイベントで、上野と、中国で強い人気を誇る女性映画研究者、戴錦華(ダイジンホア)とのオンライン対談があり、私もゲスト通訳として参加した。会場にはおよそ60名しか入場できなかったが、熱気は相当なもので、その数少ない参加者がウェイボー(中国最大のSNS)を通して発信した対談内容が、その日のホットワード・ランキングで上位を占め、注目度の高さを示した。
この対談をまとめた記事は3月3日にウェブに公開されたが、1万3000字以上あるにもかかわらず、現時点で閲覧数10万以上、6277の「いいね」がつき、「ノートを取りながら読んだ」「一字一句噛み締めながら読んでいる」「おそらく何度も読み直すことになるだろう」などのコメントがついている。